風邪をひいたら、少しでも早く治したいものです。「抗生物質を飲めば早く治るのでは」「今のうちに飲んでおけば、こじらせずに済むのでは」と考える方もいるでしょう。
ところが、通常の風邪では、抗菌薬を飲んでも回復を早める効果はほとんどありません。しかも飲めば副作用が起こることもあるため、診察で使う必要があるかを判断します。
風邪のウイルスに,抗菌薬は効きません
抗菌薬は「抗生物質」「抗生剤」と呼ばれることもある薬です(厳密には定義が異なります)。細菌を殺したり、増えるのを抑えたりします。
通常の風邪を起こすのはほとんどがウイルスです。細菌とウイルスは性質が異なり、細菌に作用する抗菌薬は風邪のウイルスには効きません。厚生労働省の手引きでも、通常の風邪には抗菌薬を使わないことが勧められています。
熱が高い、のどが強く痛むといった症状だけでは,原因が細菌なのかウイルスなのかは分かりません。症状の出方や診察の結果を合わせて、抗菌薬が必要かを考えます。
飲んだ人のほうが,早く治るのでしょうか
風邪の患者さんを対象とした複数の研究をまとめても、抗菌薬で治りが早くなる効果は確認されていません。むしろ抗菌薬を飲んだ人のほうが副作用を多く経験していました。
咳が主な症状となる急性気管支炎についても、抗菌薬の効果が調べられています。慢性の肺の病気がなく、肺炎などを除いた患者さんでは、咳が続く期間は平均で約半日短くなりました。ただし、副作用も増えています。この結果から,咳のある人全員に抗菌薬が必要とはいえません。
「前は抗菌薬を飲んだら治った」という経験がある方もいると思います。前回はもしかしら細菌による感染症だったのかもしれません。
ですが一方で、風邪症状が自然に治り始めた時期と抗菌薬を飲んだ時期がたまたま重なっただけの可能性も十分にあります。今回も必要かどうかは今回の症状と診察から判断することになります。
黄色い鼻水や痰が出たら?
鼻水や痰が黄色や緑色になると細菌が原因だと思うかもしれません。ですが、通常の風邪でも色がつくことはあります。色だけを見て,抗菌薬が必要だとは判断できません。
成人の急な咳を調べた研究では、色のついた痰がある人ほど抗菌薬を処方される傾向がありましたが、その人たちを比べても抗菌薬を処方された人のほうが早くよくなったわけではありませんでした。
咳は,ほかの症状より長く残ることがあります
鼻水やのどの痛みが落ち着いても、咳だけが続くことはあります。成人の急な咳について複数の研究をまとめた報告では、咳が続く期間は平均で約18日でした。
1週間たっても咳が出るという理由だけで抗菌薬が必要になるわけではありません。感染後咳嗽と言って、病原体がいなくなった後も咳嗽が数週間続くことはよくあり、抗菌薬は当然ながらこれには効きません。一方で、咳が強くなる、息苦しい、熱が続くといった変化があれば再び診察が必要です。咳が数週間残ることはあっても、悪化したときまで待つ必要はありません。
「念のため」の服用にも副作用があります
抗菌薬を飲むと,下痢や吐き気、発疹が出ることがあります。まれに重いアレルギーや腸の炎症が起こる場合もあります。風邪への効果が期待できなくても、こうした副作用は起こり得ます。
また」、抗菌薬を使った後は、その薬が効きにくい細菌が体の中で増えることもあります。こうした細菌を「耐性菌」と呼びます.抗菌薬を処方された人ではその後に耐性菌が見つかりやすいことが研究で報告されています。
耐性菌による感染症にかかると治療に使える薬が限られる場合があります。抗菌薬を必要なときに使うためにも効果が期待できない病気での服用は控えた方がいいでしょう。
抗菌薬が必要な病気を,診察で見分けます
風邪と似た症状でも、細菌による肺炎や、溶連菌という細菌によるのどの感染症など、抗菌薬が必要な病気があります。副鼻腔炎の一部や百日咳でも抗菌薬による治療を検討します.
診察では、いつから症状があるか、よくなっているか悪くなっているか、呼吸の状態はどうかなどを確認します。必要があれば検査を行い、抗菌薬を使うか判断します。初めは風邪と考えられても、その後の経過によって診断や治療が変わることはあります。
抗菌薬を処方されたときは指示された方法で服用してください。副作用が心配なときや、飲んだ後に異変があったときは医師や薬剤師に相談しましょう。以前の残りを自己判断で飲んだり、家族と分け合ったりすることは避けてください。
熱や痛みがつらいときは,ご相談ください
休養を取り、脱水にならないように水分を補いましょう。熱やのどの痛みがつらければ解熱鎮痛薬などで和らげる方法があります。咳で眠れないなど、生活に支障がある場合もご相談ください。
市販の風邪薬は主に症状を和らげるための薬です。風邪そのものを早く治す薬ではありません。持病や服用中の薬によって適した薬は異なるので、購入の際には医師や薬剤師に確認してください。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症では抗ウイルス薬を使う場合があります。高齢の方や重症化しやすい持病のある方などは症状が軽くても早めに相談してください。
受診・再受診してほしい症状
風邪と診断された後でも、次のような症状があるときは再び診察を受けてください。
お早めに相談してください
- 息苦しい、呼吸が速い、息をすると胸が痛い
- 水分が取れない、のどが痛くて唾液も飲み込めない
- 口が開きにくい、声がこもる、のどが詰まる感じがある
強い息苦しさなど、緊急性が高い場合は救急受診が必要です。
次の場合も、再受診してください
- 38℃前後の発熱が4日以上続いている
- 一度よくなった後に、再び熱が出たり、症状が悪化したりした
- 咳が3週間以上続く、または咳が強くて眠れない
- 症状が改善せず、経過に不安がある
日数はあくまで目安です。息苦しさや悪化があれば、その日数まで待たずに受診してください。
参考文献・公的資料
- 厚生労働省.抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・外来編.2026年. 資料を読む
- Kenealy T, Arroll B. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis. Cochrane Database Syst Rev. 2025;11:CD000247. Cochrane公式
- Smith SM, et al. Antibiotics for acute bronchitis. Cochrane Database Syst Rev. 2017;6:CD000245. PubMed
- Butler CC, et al. Antibiotic prescribing for discoloured sputum in acute cough/lower respiratory tract infection. Eur Respir J. 2011;38:119–125. PubMed
- Ebell MH, et al. How long does a cough last? Comparing patients' expectations with data from a systematic review of the literature. Ann Fam Med. 2013;11:5–13. PubMed
- Costelloe C, et al. Effect of antibiotic prescribing in primary care on antimicrobial resistance in individual patients: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2010;340:c2096. PubMed
- AMR臨床リファレンスセンター.患者のみなさまへ:感冒,急性鼻副鼻腔炎,急性咽頭炎,急性気管支炎. 患者説明用資料
- Centers for Disease Control and Prevention. Manage Common Cold. CDC公式
- U.S. Food and Drug Administration. Know When and How to Use Antibiotics, and When to Skip Them. FDA公式

コメント